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「正社員ゼロ━解雇自由」社会を許すな  11・6労働者集会で反撃を!

「正社員ゼロ━解雇自由」社会を許すな   (日刊動労千葉より転載)

11.6労働者集会に大結集を

「働き方改革」

「働き方改革は安倍内閣の次の3年間の最大のチャレンジだ」。安倍は、2月末に開かれた『一億総活躍社会実現対話』でそう語り、その後、「同一労働同一賃金の実現」「非正規社員と正社員の賃金格差を是正する」「最低賃金を平均千円をめざす」等を掲げた「一億総活躍プラン」が発表された。だが、現実に進められ、実行に移されようとしている「働き方改革」の真実は、耳ざわりのいいイメージとは全く違う、真逆のものだ。かつてヒトラーは、アウシュビッツ強制収容所の門に「自由への道」という標語を掲げたが、安倍がやっているのはこれと全く同じ手法だ。

正社員ゼロ、解雇自由

マスコミは「実効性が問われている」「選挙向けの看板政策だ」と批判しているが、そんなレベルの問題ではない。飾りたてられた宣伝の背後で猛毒が放たれ、労働者の雇用と権利が根こそぎひっくり返されようとしている。その正体は、「正社員ゼロ、解雇自由」社会を生み出すために、労働基準法、労働組合法、労働基本権を解体し、労働組合の根絶を狙う攻撃だ。それはまた、雇用のみならず、社会保障制度、医療制度、教育などすべての公共サービス部門を競争原理の中に突き落として破壊する攻撃である。

幾重にも設置された会議

第二次安倍政権が成立したのは2012年12月26日であったが、首相に就任するやいなや、「民間活力の爆発がキーワード」「そのために阻害要因を徹底的に除去する」と宣言して、これまでの雇用・労働政策の原理的転換を迫る攻撃を開始した。
そのために、年明けを待たずに、経済財政諮問会議、日本経済再生本部、産業競争力会議、規制改革会議等、何層にも重なる会議・会合を設置することが決定された。そこに竹中平蔵など、安倍をとりまく最悪の新自由主義者や国家主義者が集められ、本来なら何の権限もないはずの連中がすべてを決定し、命令していく枠組みが確立されたのである。

もう一つの改憲攻撃

司令塔の役割を果たし、政策決定のプロセスを動かしたのは事務局に集められた経産省官僚であった。雇用労働政策を審議し決定するというのに、厚労省は外され、必要に応じてヒアリングに呼ばれて命令され、追認するだけの存在に貶められた。それはある種の反動的クーデターであった。
厚労省は、「雇用ルールは、条約上、労使間で協議することが求められており、労政審での審議を経ることが必須」と「抵抗」したが一蹴された。こうやって様々な提言や報告書が作成され、閣議決定され、法制化されていったのである。それは、改憲・戦争への突進と一対をなす「もう一つの改憲攻撃」だ。

国鉄分割・民営化以来の攻撃

とくに、雇用問題を最優先課題として取り扱った規制改革会議では、その冒頭から、「この2年程度で、これまでの規制改革に決着をつける意気込みで取り組む。そのためにはロケットスタートが大事」「『何を』やるかよりも『いかに』進めるかが問題だ」(大田議長代理)といった挑戦的な意志統一の下に審議が進められた。こうして、国鉄分割・民営化以来の社会の大転換を狙う攻撃が開始されたのである。

労働者の権利が危機に瀕している

それから3年。労働法―労働者の雇用と権利は、今まさに危機に瀕している。 「私はこれまで何度か『労働法の危機』の語を用いたことがあるが、今日ほど文字どおりの『危機』を実感させる時代はない」(西谷敏・大阪市大名誉教授)「雇用をめぐる立法政策や法解釈を通じて形成された雇用政策や解釈の基盤を、根底から掘り崩してしまおうとする、歴史的転換とさえいいうる」(野田進・九州大学名誉教授)「日本の労働法は、多くの労働者にとって『氷点下』の凍結状態に陥ってしまい、労働と生活は危機的状況に直面している」(脇田滋・龍谷大学教授)。
多くの労働法学者が警鐘を乱打している。だが、最大の問題は、これほど重大な事態が進行しているというのに、労働組合の反撃が全くと言っていいほどないことだ。現場の労働者には、何が起きようとしているのかすら知らされていない。労働運動のこの現状にこそ本当の危機がある。

解雇制限法制の解体

産業競争力会議や規制改革会議では、何が議論され、確認され、そして実行に移されようとしているのか。雇用や労働者の権利に関する従来の「常識」がすべて覆されようとしている。まさに驚くべき歴史的転換、原理的転換が進められている。
最も焦点が当てられたのは、解雇制限法制の問題と「正社員改革」であった。それが、表裏一体の問題として議論されている。
解雇制限法制(解雇権濫用法理)の問題は、これまでも政府や財界が解雇規制緩和を要求し、労働側はそれに反対するという形でずっと攻防の焦点であった。しかし、規制改革会議では、こうした問題の立て方、対立軸そのものを否定し、逆転させる議論が展開された。「解雇が規制されているというのは誤解だった」「労働契約法16条は解雇を規制していない。客観的に合理的な理由を欠く解雇を例外的に権利濫用としているだけ。しかし例外が極大化した。なぜか?(日本の正社員は)職務、勤務地、労働時間が原則無限定だから、社内で配転可能である限り解雇は正当とされないため。つまり、規制の問題ではなくシステムの問題だ」と。
こうして、「職務、勤務地、労働時間が限定された雇用ルールを整備することが最優先課題と位置づけられ、それに「限定正社員」「ジョブ型正社員」という名称が与えられた。そうすれば、「その論理的帰結として、当該職務や勤務地の消失・縮小が解雇の正当な理由になるというだけ」になるというのだ。

最優先課題とされた「正社員改革」

また、「正社員改革」の問題は、「正規・非正規の二分論を超えた多様で柔軟な働き方を促進する」観点からも最重要課題とされた。ここでも、これまで「非正規職問題」という形で、社会的にも法的にも一定の待遇改善や保護が必要だと論じられてきたことが逆転され、「求められているのは正社員改革」だと主張された。「世界的に見て日本の正社員ほど特権的に保護されている存在はない、これを変えなければならない」というのだ。
そして、非正規から正規に移行させるという美名のもとに、「限定正社員(ジョブ型正社員)」を「社会通念上相当な働き方として広く普及させること」、さらには「その際、処遇を変えないという考え方がしっかりと根底にある」ことが基本方針として確認されている。つまり、非正規職と全く同じ超低賃金の定期昇給も無い「正社員」を、「新たな働き方」と称して生み出すことが確認されたのである。

5年ルールを悪用した雇用破壊

しかも、規制改革会議での議論を追ってみると、労働契約法の「5年ルール(無期雇用転換申込権)」を使えば、限定正社員を大量に生み出すことができると気づき、異様に熱を帯びた議論が展開されている。
当初は「5年ルールなど、民主党政権時代に実施された法改正であり認めない。適用除外の『雇用特区』を作る」と主張されていたことが、厚労省の抵抗などでそれが一旦挫折した時点から変化し、議論の方向性が全く変わっていく。そして、5年ルールの活用(悪用)こそ「正社員改革」の最も有効な手段だという主張に行き着く。「『正社員改革』というだけでなく、『5年で一旦全員解雇・選別再雇用』という国鉄分割・民営化型の攻撃を社会全体に拡張することができる! それこそわれわれがやりたかったことだ!」、規制改革会議の委員たちはそう考えたに違いない。

それは言うまでもなく脱法行為、違法行為だ。しかしそれが、今まさにCTSや郵政で実行に移されようとしているのである。

労働者派遣制度の合理化

第三に、「労働者派遣制度の合理化」と称して、派遣法の抜本的改悪が検討された。具体的には、「常用代替防止」の原則を崩すことに焦点があてられた。実際、昨年9月には、この方針に基づいて労働者派遣法が改悪されている。それは、マスコミが「1985年以来の転換」と報じるほどの大改悪であった。
どういうことか。派遣法は1985年の制定以降何度も改訂を繰り返し、当初は13の専門的業種に限られていた対象業務がどんどん拡大され、ついには製造業も含め原則自由化されるところまで改悪が進んでいた。しかし、「派遣を導入できるのは『一時的・臨時的業務』に限る」「常用雇用を派遣に置き換えることはできない」ということだけは「原則」として維持されてきた。それは当然のことで、そこまで崩してしまえば、この社会の雇用は全部「ハケン」になってしまいかねないからだ。しかも、労基法の根幹のひとつをなすのが「中間搾取の禁止」である。「常用代替防止」の原則を破棄することは、労基法の最後的崩壊を意味するものでもある。
安倍政権はそれを突き崩そうとした。そして、昨年9月の派遣法改悪では、それが強行されたのだ。さらにそれを突破口にして、「民間人材ビジネス」なる奴隷商売を社会に蔓延させ、成長戦略の一つの柱にしようとしているのである。戦後労働法制はまさに歴史的岐路に立ったのだ。

「常用代替防止」破棄のペテン

しかも、その際に掲げられた理由は驚くべきものであった。「『常用代替防止』は、正社員を派遣社員との競争から保護する、諸外国にはない規定であり、対等な立場での競争条件を保障するべきである」というのだ。ここでもこれまでの労働法制の考え方が完全に逆転されてしまっている。規制改革会議は、「常用代替防止は正社員の保護を目的としており、派遣労働者の保護と必ずしも相容れない」と言うが、このような言い方はペテンに他ならない。事の本質が意図的にすり替えられている。正社員であろうが、非正社員であろうが、中間搾取をしてはならないことが労基法の大原則なのだ。「常用代替防止」はそこから発している規定であり、正社員を保護しているわけではない。
こうして、企業の側は、どんな業務にでも、3年毎に人さえ入れ替えれば恒久的に派遣を使い続けることができるようになった。派遣労働者の側から見れば3年毎に首を切られ、使い捨てられていくということだ。

就業規則の万能化

第四に、就業規則を万能化し、その一方的な不利益変更が合法化されようとしている。それは、団体法・社会法としての労働法を解体し、団結権・団体交渉権・団体行動権を否定し、労働者個々人の単なる契約関係にバラバラにしていこうとする攻撃だ。
さらに、前号でも述べたように、「正社員改革」=限定正社員制度の導入とも一体の攻撃である。あらかじめ就業規則に勤務地や職務を限定しておけば、その仕事や職場が無くなったり、縮小したときは、就業規則によって自由に解雇できるようにする。こうした企みは、2007年の労働契約法制定をもってその突破口が開かれていた。労基法から労働契約に関する部分を切り離して労働契約法が制定されたのだ。
産業競争力会議では、就業規則の不利益変更の正当化について、「2007年労働契約法は挫折した」という議論がされている。そして、「労働条件変更を正当化しうる従業員代表法制が必要」「労働条件の不利益変更の効力が裁判が確定しない限り不明というのは望ましくない」と言って、就業規則を万能化し、その一方的変更を合法化しようとしているのだ。
労働移動型への政策転換

彼らは、こうした雇用・労働政策の歴史的転換を、「雇用維持型から労働移動支援型への政策転換」と言っている。終身雇用的な雇用のあり方を最後的に解体して「首切り自由」社会をつくり出そうということだ。
それは抽象的に言っているだけでなくすでに実行に移されている。2013年から15年にかけて、雇用調整助成金は1175億円から193億円に激減する一方、労働移動支援助成金は2億円から349億円に増えている。(図参照)政府の政策が、「雇用を維持した企業にカネを出す」から「首を切った企業にカネを出す」に明確に変わったのである。

雇用破壊の最後の扉が開く

以上のように、安倍政権のもとで進められている攻撃は、労働者の雇用や権利についての考え方を根本的に覆すものであり、労働者への全面戦争を意味するものだ。
産業競争力会議や規制改革会議では、これまで述べてきたこと以外にも、労働時間規制の解体(残業代ゼロ法制定)や解雇金銭解決制度の法制化、職業紹介事業の全面的な民営化等が検討され、さらに、一旦は挫折して中途半端なままになっている「雇用特区」(国家戦略特区)の設置も議論されている。また、「一億総活躍プラン」では、「躊躇なく法改正の準備を進める」と言って、労契法、パートタイム労働法、派遣法の一括改正が強行されようとしている。
とくに、規制改革会議等の議論では、《労働契約法と派遣法によって戦後労働法制をつぶすことができる》ということに全体の意見が収斂されている。改悪労契法施行から5年、改悪派遣法施行から3年を迎える2018年が歴史的な分岐点になろうとしている。「雇用崩壊」への最後の扉が開かれようとしているのだ。

国鉄分割・民営化攻撃の全社会への拡張

起きようとしているのは、国鉄分割・民営化攻撃の全社会化だ。「5年、3年で一旦全員解雇」「『限定正社員』として選別新規採用」という国鉄方式の攻撃が社会全体に拡張されようとしている。こうして、労働者を、名ばかりの正社員、限定正社員という名の非正規職に突き落とそうとしているのだ。それは、国鉄分割・民営化に次ぐ労働運動解体攻撃に他ならない。
CTSが4月から導入しようとした雇用形態改悪攻撃は、この方針を最も忠実に就業規則化しようとしたものだ。全体の9割近くを占める非正規の社員全員に、労契法が施行された2013年を起点として「あなたの雇用期限はあと何年」と通告し、あるいは新規採用者は始めから最長5年の契約で雇用して、5年目に選考試験を実施し、合格した者だけを限定社員として採用する。「採用」という言葉を使っている。無期転換ではなく新規採用。しかも、その際の賃金は時給820円~920円。時給800~900円の「正社員」が生み出される。郵政でも同様の制度が提案され、JP労組が妥結している。郵政の場合は試験ではなく「5年目に勤務査定する」としているが同じことだ。
2波のストライキを構えて4月1日実施は阻止したが、CTSは10月強行を狙っている。闘いはこれからだ。この制度がどれほど激甚に社会のあり方を変えるのか。国鉄という一企業で起きたことでも、日本の労働運動が一旦瓦解するようなことが起きたのだ。それが社会全体に適用されようとしている。

現代の産業報国会をめぐる闘い

化学総連(4万6千名)の離脱問題をめぐって連合が揺らいでいる。その背景にあるのは、安倍政権による労働政策の歴史的転換攻撃だ。
第2次安倍政権は発足当初から一貫して、連合の存立基盤にくさびを打ち込んで揺さぶり、改憲勢力として取り込むことに全力をあげてきた。連合会長との会談を拒否して「官製春闘」に引きずり込んだこと、労政審を形骸化させて連合が労働政策に関与する余地を奪ったこと等は、全部連合の切り崩しを狙ったものであった。また、「同一労働同一賃金」も、全労働者を非正規職並みの賃金に突き落とす攻撃であると同時に、UAゼンセンと手を結んで連合を分断する狙いをもっている。
櫻井よしこが一昨年の11月に産経新聞で「UAゼンセンよ、官公労と決別し、連合を分裂させよ」と言ったのも、明らかに安倍の意志を受けた主張であったし、昨年6月のUAゼンセン・逢見会長と安倍の極秘会談もそうだ。
労働法制解体攻撃と一体で、労働運動の大再編が始まっている。この情勢を階級的労働運動の再生へのチャンスに転化しなければならない。求められているのはこの攻撃に立ち向かう労働運動の変革だ。

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